越前打刃物はどう作られるのか|タケフナイフビレッジの資料館と見学工房で分かること
結論: タケフナイフビレッジの資料館では、越前打刃物の歴史と作り方を、実物とパネルで知ることができます。包丁と鎌がそれぞれ15の工程でどう姿を変えるかを並べた展示、共同工房の工程図、焼入れ・焼戻しの説明パネルを順に見ていくと、一丁の刃物ができるまでの流れがつかめます。開館時間やショップ、行き方はタケフナイフビレッジの見どころと行き方にまとめています。
私が訪れたのは2026年11月の日曜日で、工房では職人さんが1人、回転砥石(グラインダー)の前で作業していました。以下は、館内のパネルと現地で受け取ったパンフレットによります。

はじまりは南北朝時代の刀匠
越前打刃物の歴史は、およそ700年前にさかのぼります。1337年(南北朝時代)、京都の刀匠・千代鶴国安が府中(いまの越前市)に移り住み、刀を作るかたわら、農民のために三日月鎌を作ったことが起源とされています。
移り住んだ理由は、資料によって書き方が少し違います。タケフナイフビレッジのパンフレットと館内のパネルは「刀造りに適した水を求めて」、市内の別の施設である越前千代鶴の館のパンフレットは「刀剣製作にふさわしい土地を求めて」としています。
千代鶴の館のパンフレットには、こんな言い伝えも載っています。国安は「刀は武器であってはならない、武士の象徴として存在してほしい」と願い、刀を造るたびに砥石を狛犬の形に彫って池に沈めたとされ、その池からは実際に砥石の狛犬が出土しているそうです。タケフナイフビレッジは、この思いを守るためにロゴマークに狛犬を刻んでいる、とパンフレットに書いています。
名を広めたのは鎌だった
越前の刃物を全国に広めたのは、包丁より先に鎌でした。ナイフビレッジのパンフレットによると、越前漆器に使う漆を求めて全国を回る「漆かき職人」が、武生の鎌を使い、旅の資金のために刃物を売り歩き、各地の土地柄に合った鎌の注文を持ち帰ったといいます。一説には、明治7年(1874年)の全国の鎌の生産量約353万丁のうち、約27.5%にあたる97万丁が越前で作られていたそうです。
そして1979年、越前打刃物は打刃物として全国で初めて、国の伝統的工芸品に指定されました。

館内には、しめ縄を張った小さな神棚があります。説明パネルによると、ここには千代鶴国安がまつられていて、毎年11月8日には、鍛冶道具のひとつである鞴(ふいご)に感謝する「鞴祭り(鍛冶屋祭り)」が行われます。江戸時代から続き、産地の繁栄を祈る神事です。神棚を囲む梁や柱は、刃物づくりに欠かせない「水」「火」「鉄」を、水色・赤・黄色で表しているそうです。
壁一面に並ぶ15の工程

分かりやすいのは、緑の壁の2枚の板です。それぞれの工程の段階にある実物の金属片が、日本語とローマ字の名前つきで並んでいます。
包丁の板は、①鋼づくり、②地鉄づくりから始まり、③割り込み沸かし付けで鋼と地鉄を一体にします。そのあと先付け(半型とり)、中子とり、二枚広げ、焼きなまし、どろ(べと)落とし、荒ならし、裁ち廻し・仕上げならし、摺り廻し、焼入れ・焼戻し、荒研ぎ・中研ぎ、バフ研磨と進み、⑮小刃付けで終わります。

鎌の板は、③が柾置き沸かし付け、④が回し打ちと、早い段階から包丁とは別の道をたどります。先延ばし、樋入れ、焼きなまし、荒磨き・中磨き、焼入れ・焼戻し、裏磨き、刃付けと続き、⑮は銑づきです。鎌は包丁を曲げただけのものではないことが、2枚を見比べるとよく分かります。
越前ならではの2つの技法
千代鶴の館のパンフレットは、「独特の技法」として次の2つを挙げています。
- 二枚広げ(包丁): 2枚を重ねて、裏と表からベルトハンマー(昔は大づち2人、小づち1人)で打ち、2枚が同じように薄く延びるよう手早く作業する、越前打刃物独自の工程です。重ねると厚みが倍になるので熱効率が良く、より薄く延ばせて打ちむらも少なくなり、量産の効率も上がるとしています。ナイフビレッジのパンフレットは「越前打刃物だけで使われている鍛造の技術」と紹介しています。
- 廻し鋼着け(鎌・刈込鋏): 千代鶴国安が考えたと伝えられる鋼着けの技法です。地鉄の柾(幅が狭い面)に鋼を置く「柾置法」で鍛接したあと、鋼の片隅から全体を菱形につぶします。鋼をより薄く延ばせるので、研ぎやすく切れ味の良い刃を付けられます。全国の産地で一般的な「平置法」に比べ、かなりの熟練が要るそうです。
同じ館の工程説明のチラシ(割り込み工法の菜切り包丁)には、温度の目安も書かれています。鋼は約800℃、地鉄は約1000℃で打ち延ばし、約1100℃で沸かし付け、二枚広げは約800℃、焼入れも約800℃です。
工程図で工房を読む

見学通路からは、共同工房を見下ろせます。手すりの工程図には、工房の中の持ち場がアルファベットで示されています。
- A 火造り鍛造
- B 泥落とし機(ショット機)
- C 荒ならし
- D プレス・裁断(2か所)
- E 仕上げならし
- F 成形
- G 焼入れ・焼戻し
- H 歪取り
- I 荒〜中研ぎ
- J 小刃付け(仕上げ研ぎ)

工程図には「各工程のQRコードを読み取ると、解説と動画が見られます」という案内も添えられています。
「なまくら」は焼きの甘い刃物

その隣のパネルは「鋼を生かすも殺すも熱処理次第です」という一文で始まります。俗に言う「なまくら」とは焼きの甘い刃物のこと、「焼きを入れる」とは硬くてしっかりした鋼にすること、と言葉の由来にも触れています。説明されている手順は次の3つです。
- どろ塗り: 刃物の表面にどろを塗って乾かします。どろを塗らずに冷やすと表面に大きな泡(水蒸気)ができ、その部分が水に触れずに早く冷えないため、良い焼きが入りません。どろを塗ると泡が細かくなり、早く均一に冷えます。
- 焼き入れ: どろを塗った刃物を約800℃に熱し、水で急冷します。鋼の組織が変わり、それまでより硬くなります。
- 焼き戻し: 焼きを入れたままの鋼は硬くてもろく割れやすいので、150〜200℃に熱します。硬さは多少落ちますが、粘りが出て割れにくくなります。
品質を保つため、定期的に武生特殊鋼材で検査していることも書かれています。パネルの端には、ステンレス鋼は別の方法だという注記もありました。
元日零時の「初打」

資料館の一角には、「初打」の写真が並んでいます。ナイフビレッジのパンフレットによると、設立当初から毎年、元日の零時に、白装束の職人3人がひとつの刃物を鍛え上げる神事で、「今年が良き1年になりますように」との願いが込められています。「初打」フォトコンテストの受賞作品や、昔の鍛冶道具も展示されています。
ナイフビレッジが生まれるまで
パンフレットには、ナイフビレッジ自体の成り立ちも書かれています。1970年代、農業の機械化で手作りの鎌の需要が落ち、越前に60社ほどあった鎌の鍛冶屋のほとんどが廃業したといわれます。包丁でも、錆びにくいステンレスや安い型抜き刃物に押されました。そこで立ち上がったのが、当時の後継者だった10人の職人です。1982年に福井県出身のデザイナー・川崎和男氏と新商品の開発を始め、1983年に東京・六本木で新商品17点の展示会を開き、1986年にはニューヨークでも展示会を開きました。そして1993年5月、共同工房を一般に公開する形でタケフナイフビレッジが完成しました。現在は16人が伝統工芸士の認定を受けているそうです。
鍛造を見たいときは
ビレッジの英語のリーフレットにも、週末は作業する職人さんが少ないと書かれています。越前千代鶴の館(越前たけふ駅から車で約15分)のパンフレットには、原則として偶数月に火造り鍛造実演(予約不要)、奇数月に手研ぎ教室(要予約)を開くと書かれています。これは千代鶴の館の催しで、ナイフビレッジの催しではありません。行く前に千代鶴の館の予定を確かめてください。
越前打刃物を買うなら、通販という手もあります。
越前打刃物を通販で買うなら(楽天市場)
楽天市場で買える越前打刃物と手入れ用品の例です。私は使っていないので、使い心地の評価はしていません。価格・在庫・送料は各ショップのページで確認してください。
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